著者紹介
ガルリ・キモビッチ・カスパロフ(Гарри Кимович Каспаров, Garry Kimovich Kasparov, 1963年4月13日 - )。アゼルバイジャンのバクー出身の元チェス選手。15年もの間チェスの世界チャンピオンのタイトルを保持し続けた人物。1948年にFIDEによる選手権制度が始まってからでは最長記録である。現在は政治家。(Wikipediaより抜粋) もっと詳しく知りたい方は、カスパロフさんのWikipediaでどうぞ。目次
- 決定のプロセスを自覚する
- 強い自己抑制を持つ
- 「なぜ?」が戦術家を戦略家にする
- 「・・・だとしたら?」「・・・それでいいじゃないか」
- 全体を改善するもっとも手っ取り早い方法は、自分の弱点に取り組むこと
- 自分にもう一踏ん張りさせるための方法を知る
- 成功したければ、失敗の確率を2倍に増やせ
- 持続力というのは、やり直す能力にも表れる
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『決定力を鍛える』を8つに分解
1. 決定のプロセスを自覚する
自分のゲームの進め方と欠点についてカルポフから教えられなかったら、これほど長く頂点にとどまるのは無理だっただろう。(中略)才能だけでは足りない。勤勉に、夜遅くまで研究するだけでも足りない。決断に達する際に用いる方法をしっかり認識することも必要である。 知識と経験、才能を結集して最大限の力を発揮するには、自覚することが不可欠だ。ところが、その機会はあっても、こうした類の分析を行う人はほとんどいない。
2. 強い自己抑制を持つ
ゴールと中間目標を定めるのが最初のステップ、それらを追求して前進を続けるのが次の段階である。戦争の歴史には、戦場での行動に夢中になって戦略を忘れてしまった指揮官の例が少なくない。 (中略) 人は敵に難題を突きつけられると、敵の発想を論破したい、抵抗したい、挑戦に応じたいという強い誘惑に駆られる。もちろん、まさしくそれが敵のねらいであり、だからこそ挑発に乗ってはならない。
3. 「なぜ?」が戦術家を戦略家にする
大前研一は、日本の企業に関する著書で戦略家の役割をこう要約した。「戦略家の流儀は通説に対してひとつの問いを投げかけることだ。なぜ?と」 「なぜ?」こそは、職務を果たすだけの者と先見性のある者を、単なる策士と偉大な戦略家を分かつ問いである。自分の戦略を理解し、発展させ、そのとおりに実行したいのなら、たえずこの問いを抱かなければならない。 私は初心者のチェスを観ているとき、ひどい手を目にすると、なぜその手を指したのかを尋ねてみる。ほとんどの者は何も答えられない。(中略)ひとつの手を指す前に、ひとつ決断する前に、毎回立ち止まってこう問いかけることは誰にとっても大いに役立つことだろう。 「なぜこの手なのか? 私は何を達成しようとしていて、それを達成するのにこの手はどう役立つのか?」
4. 「・・・だとしたら?」「・・・それでいいじゃないか」
私たちは突飛に思えるアイデアや解決策をすぐに退けてしまいがちだ。特にそれは既存の方法が長く定着している分野で目につく。独創的に考えることができないのは、仕事や人生の様々な条件に強いられているからでもあり、みずから制約を課しているせいでもある。「・・・だとしたら?」は「・・・それでいいじゃないか」につがることがしばしばある。そのとき私たちは、勇気を奮い起こして確かめなくてはならない。
5. 全体を改善するもっとも手っ取り早い方法は、自分の弱点に取り組むこと
持って生まれた才能を最大限に活かすには、批判的に自己を分析して最大の弱点を改善する覚悟を決めなくてはならない。何より安易なのは、才能に頼り、自分の得意なものに専念することだ。長所を活用したほうがいいのはたしかだが、偏りすぎれば伸びしろは限られる。全体を改善するもっとも手っ取り早い方法は、自分の弱点に取り組むことだ。
6. 自分にもう一踏ん張りさせるための方法を知る
肝心なのは、自分の意欲を掻き立てるもの、自分にもう一踏ん張りさせる方法を知ることである。私の場合、それは計画を貫くことだ。自分のプログラムに例外を設けない限り、私は意欲を感じられる。もちろん、活動に没頭し続けるためには新しいチャレンジも必要だろう。やっていることが単なるくりかえしになったり、慣れを感じるようになったら、エネルギーを注ぐ新たな対象を見つける潮時だ。
7. 成功したければ、失敗の確率を2倍に増やせ
テクノロジーの歴史が示す通り、何が大ヒット商品になるかは予想がつかない。不首尾に終わる新しいアイデアもあるので、多少の失敗は受け入れる必要がある。IBM創立者のトーマス・ワトソンはこう表現した。「成功したければ、失敗の確率を2倍に増やせ」。ときに失敗しなければ、発明家たる者に求められるリスクを負っていないというわけだ。
8. 持続力というのは、やり直す能力にも表れる
F・スコット・フィッツジェラルドはこう書いた。「持続力というのは、つづける能力だけではなく、やり直す能力にも表れる」。ミスをして、やり直さなければならないのなら、もう一度やるしかない。この持続力は生活の質のみに関するものではない。意思決定プロセスに意欲的に関わり続けることは、そのプロセスを改善する一つの鍵となる。
まとめ
偉大なチェスプレーヤー、サヴィエリ・グリゴリェーヴィチ・タルタコワは言いました。「戦術とはすることがあるときに何をすべきか知ることであり、戦略とはすることがないときに何をすべきかを知ることである」まさしく、彼は「戦略と戦術」を使いこなしています。でも、それだけは勝つことはできても、勝ち続けることはできません。その証拠に、「決定のプロセスを自覚する」の話では、自覚的に意思決定することの大切さを説いています。「強い自己抑制を持つ」の話では、まずゴールと中間目標を立て逆算せよ、次に、強い自己抑制を持って戦略を貫徹せよ、と説き、一貫性を持つことの難しさを語ります。
「なぜ?」の話、「・・・だとしたら?」の話からはかんたんな問いを持ち、それに答えることで停滞を防ぐことができるとわかります。「全体を改善するもっとも手っ取り早い方法」の話は、ビジネスの名著『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』の「全体最適」の話に通じます。その他の話もシンプルながら筋が通っています。
全体を通して、カスパロフ自身が長いチェス人生で勝ち続けるために考え抜いた論理に基づいて話が展開されており、意思決定のための武器を読者に授けてくれている印象を持ちました。ただ、世界で一番知的と言われているゲームで長年、世界王者に居続けるだけあって、思考回路がとってもストイックでギッチギチです。読めば意思決定のための武器はちゃんと手に入りますが、この重い重い武器を扱えるかどうか・・・。内容密度的にも古典レベルですし、下手に手を出すと骨折するでしょう。興味がある人だけ手にとってみてください。(おそらく、イカのゲームにも役立ちます)
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自習問題
- 決定以外に私たちが普段行っているプロセスにはどんなものがあるか?
- 自己抑制を持つためにできることはどんなことが挙げられるか?100個考えてみよう。
- (敵の場合)戦略家を戦術家にするとしたらどうすればいいか?
- 「・・・だとしたら?」「・・・それでいいじゃなイカ」とならないことを役に立たせる方法はあるか?
- 得意なところを生かして、自分の弱点に取り組むことはできるか?できるとしたら、どんな方法があるか?
- 仲間にもう一踏ん張りさせるための方法はどんなものがあるか?100個考えてみよう
- 失敗の確率を10倍に増やしたら、成功の確率は通常の何倍になるか?
- 「持続力とは、◯◯である」100個考えてみよう
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