2016年12月4日日曜日

【書評】『構想力』谷川浩司

美しい将棋。現日本将棋連盟会長。羽生さんの史上初七冠制覇の最後の相手。これらのキーワードを結ぶと浮かんでくる人物、それが谷川浩司 氏です。羽生さんをして「天才」と言わせる彼は何を考え、将棋を指しているのだろうか?そして、そこから私たちが学べることはないだろうか?彼の著書からその非凡な思考を探ります。

著者紹介

谷川浩司。1962年、神戸市生まれ。11歳で若松政和七段に入門。13歳で初段、14歳で四段と異例のスピードで昇進。83年に、未だに破られていない21歳で史上最年少の名人となる。以後、92年には四冠となるなど棋界の第一人者として活躍。96年の第45期王将戦で羽生善治に七冠の座を許し、一時不調にあったものの同年の第9期竜王戦で羽生より竜王位を奪取。華々しい復活を遂げる。97年の第55期名人戦で通算5期目の名人位獲得により、「十七世名人」として永世名人の資格を得る。A級順位戦は40代以上ではただ一人で、名人含め連続25期。富士通杯達人戦は4連覇など、活躍を続けている(本より抜粋) もっと詳しく知りたい方は、谷川さんのWikipediaでどうぞ。

目次

  1. 理想的な状態を考え、逆算する
  2. 構想に必要な四要素
  3. 詰将棋を解くのではなく、作る
  4. 香車四枚を見ろ
  5. 自分の頭で考える
  6. 「15分」の使い方
  7. 常識はまず疑った上で、自分自身で検証する
  8. 蓄積した情報は捨てるのではなく、つねに使う
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『構想力』を8つに分解

1. 理想的な状態を考え、逆算する

駒がぶつかり合っているうちに、私にかぎらずプロ棋士は「この将棋に勝つにはどのようなパターンがあるのだろうか」と、最終的な勝ち方をいくつかイメージする。そして、そこに向かうためにはどうすればいいのか、具体的な手順を構想していくのである。

2. 構想に必要な四要素

私が思うに、構想に必要な力には、おおまかにいって以下の四つがあげられる。 第一は「知識」である。相手の情報を集め、傾向を知ることは、構想を練るためには絶対に必要だ。対局によってはそれで勝負が決まってしまうケースもあるからだ。 第二は「正確な状況判断」。将棋で言えば、形成を正しく判断する力のことである。いま現在、自分がいかなる状況にあるのかを正確にジャッジできなくては、つまり構想するための立脚点が間違っていては、深く、正しい構想など組み立てられるわけがない。 三つ目は「先を見通す正確な読み」。自分がこういう行動を起こしたら、状況がどのように推移していくかを正しく見極める力があれば、それだけ構想力は高まることになる。 そして、四つ目が「時間の管理」である。何事を行うにせよ、時間は無制限にあるわけではない。将棋にも対局には待ち時間というものがあり、限られた時間の中で形成を判断し、正確に先を読み、最善の指し手を選択しなければならない。そのためにはいかに時間を使うか、どれだけ効率よく管理し、配分できるかということが勝負に大きく影響する。

3. 詰将棋を解くのではなく、作る

私ならではの研究法といえるものがある。詰将棋がそれだ。ご承知のように詰将棋とは攻め方が王手の連続で、相手玉を詰ますゲームのことだが、私は子どものころからこの詰将棋を「作る」のが好きだった。そして、私はいまだにそれを続けている。 詰将棋を「解く」ことを基礎トレーニングに採り入れているプロ棋士は少なくない。(中略)私がつくるのは、20手、30手以上の複雑なものであるが、詰将棋というのは。たとえ七手詰め、九手詰めのようなかんたんなものであっても、平凡な手順で詰んだのではダメである。ふつうではなかなか思いつかない、あっと驚くような手で詰まないと作品として評価されない。

4. 香車四枚を見ろ

正確な状況判断をするために必要なのは何だろうか。 将棋では、「香車四枚を見ろ」とよくいう。どういうことかといえば、香車は通常、盤の四隅にある。つまり、「つねに盤面全体を視野に入れなさい」という意味である。 自分が攻めている箇所ばかりに集中していると、その部分は得をしていても、全体では損していることに意外と気がつかないものである。たとえば、味方の駒が邪魔をして玉が逃げられなくなっているとか、この駒は遊んでいて役に立っていないということを、往々にして見逃しがちなのである。

5. 自分の頭で考える

わかりやすくたとえてみよう。関西在住の私は、東京に赴かなければいけない機会も多いのだが、そのときの交通手段としてふつうイメージするのは、新幹線か飛行機だ。これが「常識」である。 ところが、新幹線は事故が起こって不通になっていた。そこで飛行機に切り換えようと考えたが、同様に考えた人も多かったのか、空港に着いたら東京行きは満席で、キャンセル待ちをしても切符はとれそうにない。さて、どうするか。 常識的な方法しかイメージできない人は、この時点でパニックに陥ってしまう可能性が高い。だが、実は東京に行くための方法はいろいろあるのである。たとえば仮に空港にいるなら、一度仙台なり新潟なりに飛んで、そこから東京に向かう方法が考えられるし、新大阪駅にいるのなら、鉄道を使って空港のある都市に行き、そこから飛行機に乗り換えるという手も考えられる。選択肢は探せばほかにもあるのである。

6. 「15分」の使い方

羽生さんも何かのインタビューで語っておられたことだが、15分は短いと一般的には思われているものの、実際はそのなかでできることというのはけっこうある。たとえば、外出するとき、思ったよりも準備が早くできて、家を出るまでに15分ほど時間が余ったとする。そのとき、「15分しかない」と思うか、それとも「15分もある」と考えるかで、その過ごし方はずいぶんと変わってくる。 「15分しかない」と思えば、ただぼーっとしているだけだろう。もちろん、それもひとつのやり方である。が、「15分もある」と捉えれば、たとえば書類の整理をしたり、書かなければいけなかった手紙を書いたりと、それなり有効な時間の使い方ができるはずだ。

7. 常識はまず疑った上で、自分自身で検証する

常識は疑ったうえで、必ず自分自身で検証することが大切なのだ。その結果、正しいと思えば取り入れればいいし、間違っていると感じたら捨てればいい。自分で検証しなくては、常識を信じるにせよ否定するにせよ、どちらもイメージの可能性を狭める結果になってしまうと私は思うのだ。常識は自分で検証してはじめて常識になるのである。

8. 蓄積した情報は捨てるのではなく、つねに使う

古田さんもいっていたが、捨てるという作業は口で言うほど簡単ではないのも事実である。やはり、蓄積した情報をつねに使っていることが大切だと私は思う。そうすれば、必要な情報が残り、不要な情報は淘汰されていく。もちろん、そのためにはつねに最新の情報を入手する努力が大切であることはいうまでもない。

まとめ

逆算するという考え方は、シンプルながら強力です。構想に必要な四つの要素も知っているかどうかで差がつきそうです。このようなプロ棋士たちが当たり前に行っていることを真似るというのは上達の近道のように思えます。 詰将棋を作るというのは驚きでした。何かを極める人、本当に強い人というのは、その人しか持っていない習慣を持っていることが多いですね。谷川氏の場合は、詰将棋を作ることが彼独自の研究法になっていたとのことです。「詰将棋」を「問題」と置き換え、「問題を解くのではなく、作る」と言い換えると問題解決力を鍛えられそうですね。 

視野は広く。全体像を持て。自分の頭で考えよう。これらの教訓は、比較的どこでも目にする言葉です。しかし、覚えるばかり、唱えるばかりで実践できていない人が多い。これを戒めるのが、「自分で検証する姿勢を持つ」「情報は使うもの」という教えです。15分あれば何か検証できないか?何か実践できないか?と考えてみると、いつの間にか普段の生活の質が上がっているのではないでしょうか。「捨てるのではなく、使う」という考え方も応用が効きそうですね。 

他には、「大局観を身につけるには、相手の立場に立って想像する」という話や「自分のブランドを作れ」という話、「礼儀やマナーに気を遣わない人間は、絶対に強くなれない」の話などが心に響きました。「形勢不利に陥ったときはどうするか」という問いについての答えも載っています。何かに勝ちたいけど勝てないという人は、ぜひ一度読んでみることをおすすめします。(私はこれを読んで以来、イカのゲームで連戦連勝です)

自習問題

  • 「逆算する」以外にプロ棋士が普段行っている考え方はどんなものがあるか?
  • 構想に必要な四要素を自分で考えるとしたらどうなるか?
  • 自分だけの習慣を持っているか?持っていないとしたらどんなものを習慣としたいか?
  • 全体像が考えやすくなる方法は何かあるか?それはどんなものか?
  • 他人の頭で考える利点はないか?
  • 「15分」の最高の使い方はどんなものか?
  • 未検証の常識で無意識のうちに従ってしまっているものはどんなものか?
  • 捨てるのではなく、使うという考え方は他にどんなところに活かせるか?
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