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2016年12月4日日曜日

【書評】『構想力』谷川浩司

美しい将棋。現日本将棋連盟会長。羽生さんの史上初七冠制覇の最後の相手。これらのキーワードを結ぶと浮かんでくる人物、それが谷川浩司 氏です。羽生さんをして「天才」と言わせる彼は何を考え、将棋を指しているのだろうか?そして、そこから私たちが学べることはないだろうか?彼の著書からその非凡な思考を探ります。

著者紹介

谷川浩司。1962年、神戸市生まれ。11歳で若松政和七段に入門。13歳で初段、14歳で四段と異例のスピードで昇進。83年に、未だに破られていない21歳で史上最年少の名人となる。以後、92年には四冠となるなど棋界の第一人者として活躍。96年の第45期王将戦で羽生善治に七冠の座を許し、一時不調にあったものの同年の第9期竜王戦で羽生より竜王位を奪取。華々しい復活を遂げる。97年の第55期名人戦で通算5期目の名人位獲得により、「十七世名人」として永世名人の資格を得る。A級順位戦は40代以上ではただ一人で、名人含め連続25期。富士通杯達人戦は4連覇など、活躍を続けている(本より抜粋) もっと詳しく知りたい方は、谷川さんのWikipediaでどうぞ。

目次

  1. 理想的な状態を考え、逆算する
  2. 構想に必要な四要素
  3. 詰将棋を解くのではなく、作る
  4. 香車四枚を見ろ
  5. 自分の頭で考える
  6. 「15分」の使い方
  7. 常識はまず疑った上で、自分自身で検証する
  8. 蓄積した情報は捨てるのではなく、つねに使う
構想力 (角川oneテーマ21)
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『構想力』を8つに分解

1. 理想的な状態を考え、逆算する

駒がぶつかり合っているうちに、私にかぎらずプロ棋士は「この将棋に勝つにはどのようなパターンがあるのだろうか」と、最終的な勝ち方をいくつかイメージする。そして、そこに向かうためにはどうすればいいのか、具体的な手順を構想していくのである。

2. 構想に必要な四要素

私が思うに、構想に必要な力には、おおまかにいって以下の四つがあげられる。 第一は「知識」である。相手の情報を集め、傾向を知ることは、構想を練るためには絶対に必要だ。対局によってはそれで勝負が決まってしまうケースもあるからだ。 第二は「正確な状況判断」。将棋で言えば、形成を正しく判断する力のことである。いま現在、自分がいかなる状況にあるのかを正確にジャッジできなくては、つまり構想するための立脚点が間違っていては、深く、正しい構想など組み立てられるわけがない。 三つ目は「先を見通す正確な読み」。自分がこういう行動を起こしたら、状況がどのように推移していくかを正しく見極める力があれば、それだけ構想力は高まることになる。 そして、四つ目が「時間の管理」である。何事を行うにせよ、時間は無制限にあるわけではない。将棋にも対局には待ち時間というものがあり、限られた時間の中で形成を判断し、正確に先を読み、最善の指し手を選択しなければならない。そのためにはいかに時間を使うか、どれだけ効率よく管理し、配分できるかということが勝負に大きく影響する。

3. 詰将棋を解くのではなく、作る

私ならではの研究法といえるものがある。詰将棋がそれだ。ご承知のように詰将棋とは攻め方が王手の連続で、相手玉を詰ますゲームのことだが、私は子どものころからこの詰将棋を「作る」のが好きだった。そして、私はいまだにそれを続けている。 詰将棋を「解く」ことを基礎トレーニングに採り入れているプロ棋士は少なくない。(中略)私がつくるのは、20手、30手以上の複雑なものであるが、詰将棋というのは。たとえ七手詰め、九手詰めのようなかんたんなものであっても、平凡な手順で詰んだのではダメである。ふつうではなかなか思いつかない、あっと驚くような手で詰まないと作品として評価されない。

4. 香車四枚を見ろ

正確な状況判断をするために必要なのは何だろうか。 将棋では、「香車四枚を見ろ」とよくいう。どういうことかといえば、香車は通常、盤の四隅にある。つまり、「つねに盤面全体を視野に入れなさい」という意味である。 自分が攻めている箇所ばかりに集中していると、その部分は得をしていても、全体では損していることに意外と気がつかないものである。たとえば、味方の駒が邪魔をして玉が逃げられなくなっているとか、この駒は遊んでいて役に立っていないということを、往々にして見逃しがちなのである。

5. 自分の頭で考える

わかりやすくたとえてみよう。関西在住の私は、東京に赴かなければいけない機会も多いのだが、そのときの交通手段としてふつうイメージするのは、新幹線か飛行機だ。これが「常識」である。 ところが、新幹線は事故が起こって不通になっていた。そこで飛行機に切り換えようと考えたが、同様に考えた人も多かったのか、空港に着いたら東京行きは満席で、キャンセル待ちをしても切符はとれそうにない。さて、どうするか。 常識的な方法しかイメージできない人は、この時点でパニックに陥ってしまう可能性が高い。だが、実は東京に行くための方法はいろいろあるのである。たとえば仮に空港にいるなら、一度仙台なり新潟なりに飛んで、そこから東京に向かう方法が考えられるし、新大阪駅にいるのなら、鉄道を使って空港のある都市に行き、そこから飛行機に乗り換えるという手も考えられる。選択肢は探せばほかにもあるのである。

6. 「15分」の使い方

羽生さんも何かのインタビューで語っておられたことだが、15分は短いと一般的には思われているものの、実際はそのなかでできることというのはけっこうある。たとえば、外出するとき、思ったよりも準備が早くできて、家を出るまでに15分ほど時間が余ったとする。そのとき、「15分しかない」と思うか、それとも「15分もある」と考えるかで、その過ごし方はずいぶんと変わってくる。 「15分しかない」と思えば、ただぼーっとしているだけだろう。もちろん、それもひとつのやり方である。が、「15分もある」と捉えれば、たとえば書類の整理をしたり、書かなければいけなかった手紙を書いたりと、それなり有効な時間の使い方ができるはずだ。

7. 常識はまず疑った上で、自分自身で検証する

常識は疑ったうえで、必ず自分自身で検証することが大切なのだ。その結果、正しいと思えば取り入れればいいし、間違っていると感じたら捨てればいい。自分で検証しなくては、常識を信じるにせよ否定するにせよ、どちらもイメージの可能性を狭める結果になってしまうと私は思うのだ。常識は自分で検証してはじめて常識になるのである。

8. 蓄積した情報は捨てるのではなく、つねに使う

古田さんもいっていたが、捨てるという作業は口で言うほど簡単ではないのも事実である。やはり、蓄積した情報をつねに使っていることが大切だと私は思う。そうすれば、必要な情報が残り、不要な情報は淘汰されていく。もちろん、そのためにはつねに最新の情報を入手する努力が大切であることはいうまでもない。

まとめ

逆算するという考え方は、シンプルながら強力です。構想に必要な四つの要素も知っているかどうかで差がつきそうです。このようなプロ棋士たちが当たり前に行っていることを真似るというのは上達の近道のように思えます。 詰将棋を作るというのは驚きでした。何かを極める人、本当に強い人というのは、その人しか持っていない習慣を持っていることが多いですね。谷川氏の場合は、詰将棋を作ることが彼独自の研究法になっていたとのことです。「詰将棋」を「問題」と置き換え、「問題を解くのではなく、作る」と言い換えると問題解決力を鍛えられそうですね。 

視野は広く。全体像を持て。自分の頭で考えよう。これらの教訓は、比較的どこでも目にする言葉です。しかし、覚えるばかり、唱えるばかりで実践できていない人が多い。これを戒めるのが、「自分で検証する姿勢を持つ」「情報は使うもの」という教えです。15分あれば何か検証できないか?何か実践できないか?と考えてみると、いつの間にか普段の生活の質が上がっているのではないでしょうか。「捨てるのではなく、使う」という考え方も応用が効きそうですね。 

他には、「大局観を身につけるには、相手の立場に立って想像する」という話や「自分のブランドを作れ」という話、「礼儀やマナーに気を遣わない人間は、絶対に強くなれない」の話などが心に響きました。「形勢不利に陥ったときはどうするか」という問いについての答えも載っています。何かに勝ちたいけど勝てないという人は、ぜひ一度読んでみることをおすすめします。(私はこれを読んで以来、イカのゲームで連戦連勝です)

自習問題

  • 「逆算する」以外にプロ棋士が普段行っている考え方はどんなものがあるか?
  • 構想に必要な四要素を自分で考えるとしたらどうなるか?
  • 自分だけの習慣を持っているか?持っていないとしたらどんなものを習慣としたいか?
  • 全体像が考えやすくなる方法は何かあるか?それはどんなものか?
  • 他人の頭で考える利点はないか?
  • 「15分」の最高の使い方はどんなものか?
  • 未検証の常識で無意識のうちに従ってしまっているものはどんなものか?
  • 捨てるのではなく、使うという考え方は他にどんなところに活かせるか?
構想力 (角川oneテーマ21)
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【書評】『歩を金にする法』升田幸三

「新手一生」の言葉通り、最後まで創造的な将棋に取り組んだ名人、升田幸三。終戦直後、日本を統治していたGHQが「将棋は相手から奪った駒を味方として使うことができるが、これは捕虜虐待の思想に繋がる野蛮なゲームである」として将棋を禁止しようとしたとき、将棋連盟の代表としての彼の反論は、彼独自の将棋観を理解するのにぴったりです。「将棋は人材を有効に活用する合理的なゲームである。チェスは取った駒を殺すが、これこそ捕虜の虐待ではないか。キングは危なくなるとクイーンを盾にしてまで逃げるが、これは貴殿の民主主義やレディーファーストの思想に反するではないか」

著者紹介

升田幸三。将棋棋士。実力制第4代名人。木見金治郎九段門下。棋士番号は18番です。広島県双三郡三良坂町(現三次市)生まれです。1991年4月5日(満73歳没)に惜しまれながらこの世を去りました。詳しくは、Wikipediaで読んでください。

伝説的なエピソードを一つ紹介しましょう。升田氏は、1932年(昭和7年)2月に「日本一の将棋指し」を目指して家出しました。家出の時、愛する母の使う物差しの裏に墨で「この幸三、名人に香車を引いて勝つ」としたためました。この言葉は後に現実のものとなりました。 その独創的な指し手、キャラクター、数々の逸話により、将棋界の歴史を語る上で欠かすことができない存在です。

目次

  1. 「なる」ということ
  2. 仏の心
  3. 足りない、足りない
  4. 一手ちがい
  5. 今日のスコアは一万年も前からきまっているんだと思ってやってみる
  6. カラダが動く
  7. 凝視することによって、はじめてものが正視できる
  8. 弱い者にこそ気を遣う
歩を金にする法 (小学館文庫)
升田 幸三 小学館 売り上げランキング: 603,189

『歩を金にする法』を8つに分解

1. 「なる」ということ

将棋でおもしろいのは、「なる」ということだ。歩だと思っていたのが、金になったりする。それがわからないとえらいことになる。敵陣に入ると、ヤリでも金でも同じ資格になる。歩の場合は、何階級かあがる。銀は一階級しかあがらない。とにかく敵陣に突入したらそれぞれ出世する。そういう約束になっている。 全体的には出世させたほうがいいのだけれど、しかし大局的にみて、わざと出世させない駒もある。強くなるとこれがわかる。歩一つからみたら、不平タラタラだろう。だが歩に力を出させると困る場合がある。 世の中の場合には、わざと出世させられなかったら、不平がうんとでるだろう。各会社の運営をみて、そういう動かし方をしているところがあるようだ。エキスパート専門家といってもいい存在がある。 これは役員にせず、販売なら販売専門、給料は役員待遇をやってもいい。歩の特色を生かすのだ。そのほうが能率化する。なんでもかんでも役員にしてしまうというのは、味がないと思う。(中略)役員になっては、あまりうまく働けない性質の人もいるのだ。

2. 仏の心

将棋連盟の規定では「王手を知らないで他の手を指したとき」は禁手で負けることになっている。つまり、プロの場合は、王手を相手が気づかない場合は、王を取ってもいいわけである。しかし、元来王は取るものでなく、詰めるものである。王は取らず、相手に指す手をなくするー相手の手を詰まらせることが将棋の妙味である。 この点が、諸外国の将棋と著しく異なる点であろう。日本の将棋の根本精神は、「殺す」ことではない。争いのときは相手は敵であるが、相手の駒を取っても、その階級によってうまく使い、功あらば大いに出世もさせてやる。 ある人は、碁は、しまうときは白黒と二つのゴケに入れるが、将棋は一つの駒箱におさめ、戦い終わると敵も味方もない、といって将棋の美風を讃えた。まったく同感である。将棋は盤上の攻防は峻烈で、勝負そのものはきびしいものであるが、その精神はあくまでも仏心である。

3. 足りない、足りない

将棋の駒の動かし方についても、初心を忘れると命とりにになる。最初にならうときは、飛車はこういうふうに動く、角はこういうふうに動く、と習ったはずだ。角は飛車の半分の働きで、格がおちる。そういうことを最初に教わっているのに、忘れてしまう。 飛車は広く使えば角にまさるということを忘れて、飛車はよく働くから大事だとばかり、キズつかないようにと執着して、かえって、働かすことを忘れてしまう。しまいこんで働かさないのでは、意味がない。 飛車にお守り役までつけている。こちらがチョッカイかけると、なおおそれて護衛したりする。初心を忘れているのだ。初心を忘れ、力のないものほど、余分なもの、自分の力で消化しきれないものを大事にかかえこんだりする。 消化力もないのに、ナギナタも鉄砲も、一応欲しい。刀も何十本も欲しい。力のよわいものほど、こういう要求をする。金にたとえると、余分な金、余分な生活費がほしいということになる。 上手になってくるほど、消化できる程度しか欲しがらない。自分の活用できないものまで要求しない。駒をうんともったときは、おくれている。(中略)僕はいつも、足りない、足りないという感じをもちながら、そういうところで仕事をしてしまう。

4. 一手ちがい

勝負をするときになんでもかんでも、相手にウンと差をつけようとりきむのはよろしくない。(中略)勝負の急所は、一手ちがいで相手を倒すことにある。五手も十手もちがうというのは、どだい自分が勝負すべき相手ではない。 しかし、いよいよ詰む段階になると、つい二手も三手もひらいて勝ちたくなる。安全を願うのだが、実は一手ちがいでいいという計算が成り立つほうが安全なのだ。何手もちがわせると、欲がからんで、まちがいがある。(中略)勝とうというヨミではなくて、一手ちがいにしておこうというヨミ。勝負をつけるのではなくて、野球で言えば、同点にすがって、延長戦にもちこもうとするヨミ。 ここに極意がひそんでいそうに思う。これでなければ勝機は生まれない。

5. 今日のスコアは一万年も前からきまっているんだと思ってやってみる

あるアメリカのゴルフのプロの勝負観に、「練習の力量が本番で出ないのは勝負にとらわれすぎるからだ。今日のスコアは一万年も前からきまっているんだと思ってやってみたまえ」という意味のことがあると、人に聞いたことがある。この運命論敵な考え方も大切なことだと思う。僕も過去に、大事なながい勝負を争ったときに、先になるか、後から来るか、いずれにしても自分がぶつからねばならぬ宿命であったと思って、何回かの敗局を甘受した。 なんにしても、力量が評価されるのは、けいこではなく本番である。本番で力が出ないというのではなんにもならぬ。その人は弱いのである。

6. カラダが動く

芸の極致など極めたことがないからわからないけれど、だいたい極致的なものは、カラダでものを知っていて、そこから出てきたものにちがいない。 皮膚が知っているという、それが極致点だと思う。ところが僕など凡人は、ついアタマで考えすぎてしまうことがある。アタマで考えすぎると失敗する。(中略)皮膚で感じ、カラダが素直に動く状態、何事にもこれがいちばんいい。 一日二十四時間のうち、十時間くらいそういう状態を持続したいものだ。

7. 凝視することによって、はじめてものが正視できる

僕は凝視ということをよく言うんですがね、凝視っていうのは掘り下げることですね。凝視することによって、はじめてものが正視できるということで、凝視することを知らんものは正視できない。正視できんものが、なにができるかということなんですよ。 凝視することによって、早く吸収するということですね。なんでもないことですが。(中略)凝視する人は、短時間のうちに消化するけれども、凝視する性格でないものは、七十年やったってなかなかわからない。上っ面だけしか。

8. 弱い者にこそ気を遣う

私の人生観も弱い者に気をつかうことです。原さんは強い人だから気をつかうことはいらない。だから、たとえば車なら運転する人が弱い者だと思う。これには乗ったり降りたりするときに、「ありがとうございました」とか、「ご苦労さんです」のあいさつは必要だと思う。 そういう具合に、私が将棋をもって会得したことは、もう部課長とか上の方には気をつかうことはなく、この歩の立場にある人に気をつかわなければいかぬ、これが大事だと思うということなんです。役員とか上の方と話をしますが、こういう人には気をつかう必要はない。ところが、受付などの人には気をつかう。これに礼を失くしたりしてはいけない。これがいちばん大事だと思っております。 相手が偉い人だと、向こうが一回も頭を下げていないのにこちらが十回もも下げておるのがいるが、これはおかしいと思う。弱い者に気をつかうことは将棋から得た人生観です。

まとめ

将棋の駒に限らず、「なる」ということはよくあることです。パッとしなかった人がこつこつ努力を続け、大成する。そこに適材適所が組み合わされば、鬼に金棒の力を生みます。

逆に、昔、立派だった人が何かをきっかけにだめになってしまうという「なる」もあるのではないでしょうか。そこに個人的な原因を見出すのはかんたんですが、どうしても抗えない外因ということのもあるでしょう。プロのスポーツ選手なんかがそうですね。それも適材適所の采配によって、また日の目を見ることもあるのではないかと思いました。何とか再生工場とはよく言ったものです。

また、仏心の話、一手ちがいの話、カラダが勝手に動くの話などはさすが名人らしい考え方だなと思いました。凝視の話では、「集中」や「観察」とはまた違った表現でそれらが言わんとすることを独特の言葉で的確に言い表しています。弱い者にこその話では、素直に素晴らしいと思いました。こういうことを淡々と語るところに升田幸三の凄みが透けて見えます。

他には、「まずはやってみろ」の話や「失敗と経験は違う。初めて挑戦したことは失敗とは呼ばない」の話、「虚と実の使い分け」の話などが面白かったです。吉川英治が升田幸三に渡したという本の話は、必読です。既に絶版になっているようですが、独特の視点が新鮮で実に面白い本なので一度読んでみてはいかがでしょうか。

自習問題

  • 「なる」と「ならない」の使い分けのコツはあるか?あるとしたらどんなものか?
  • 仏の心を持たないほうが良いこともあるのか?それはどんなときか?
  • 初心を絶対に忘れないようにするにはどうしたら良いか?
  • 周りで一手ちがいの意識を実行している人はいるか?
  • 勝負に囚われないようにする方法は他にどんなものがあるか?
  • どんな鍛錬を積めばカラダが動くようになるか?どれくらい鍛錬を積む必要があるか?
  • 凝視する以外に物事を正視する方法はあるか?それはどんなものか?
  • 弱い者に気を遣わないほうが良い場合はあるか?それはどんなときか?
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【書評】『捨てる力』羽生善治

最近では「片付け」が世界的に流行っています。では、なぜいま「片付け」が注目されるようになったのでしょうか?そして、日本にとどまらず、世界共通でその方法論が必要とされるようになったのでしょうか?片付けはただ家の中、部屋の中を綺麗にするだけなのでしょうか?片付けの方法論は、家庭のみならず仕事の場にも活かせないのでしょうか?「捨てる力」は、そんな疑問に答える一冊です。(嘘です。将棋の考え方の本です。)

著者紹介

羽生善治。日本の将棋棋士。二上達也九段門下。棋士番号は175です。1970年9月27日生まれの現在、44歳です。身長は172cm。埼玉県所沢市で生まれ、幼稚園に入る頃から東京都八王子市に移り住みました。詳しくは、Wikipediaで読んでください。1996年2月14日、将棋界で初の7タイトル独占を25歳で達成し、その後も記録を塗りかえ続ける天才棋士です。(ちなみに、チェスでも日本トップクラスの腕前です)

目次

  1. 今持っている力は早く使い切ったほうがいい
  2. プロとして続けていくなら負け方のスタイル、哲学を身につける必要がある
  3. 欠点を裏返すとそれがその人の一番の長所であったりする
  4. 無駄な駒は一枚もない
  5. 重要なのは「選ぶ」より「捨てる」こと
  6. 「知識」は一時的なもの、「知恵」は普遍的なもの
  7. 自分自身の美意識を磨く
  8. 頭ではなく心で考える
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『捨てる力』を8つに分解

1. 今持っている力は早く使い切ったほうがいい

「温存しとこうとかあとで使おうというのはダメで、今持っている力は早く使い切ったほうがいい」「(七番勝負の場合)最後に力を残しておこうとしても、使う前に終わっちゃうことが多いんですよ」

2. プロとして続けていくなら負け方のスタイル、哲学を身につける必要がある

プロとして続けていくなら、勝つことよりも負け方のスタイル、哲学を身につける必要があるのではないでしょうか。

3. 欠点を裏返すとそれがその人の一番の長所であったりする

「企業秘密だから言わないが、自分では(自分の欠点を)わかっている。自分ではわかっているのだから、その欠点は消すことができるかというと、それは難しい。それを消そうとすると、また別の欠点が出てくるのである」

4. 無駄な駒は一枚もない

将棋には王将をはじめ、8種類の駒がある。「何気なく忘れていた隅っこの歩が、あとですごく効いたというのが本当にある。会社組織と同じで、なんだか暇そうな人間がひとりいるぞと思っていたら、5年後にはすごい功績をあげたなんてことがあるんですよ」

5. 重要なのは「選ぶ」より「捨てる」こと

山ほどある情報から自分に必要な情報を得るには「選ぶ」より「いかに捨てるか」のほうが重要。手は浮かぶものではなくて、消去して残ったものになります。ひとつの手を選ぶということは、それまで散々考えた手の大部分を捨てること。たくさん時間を費やした手に対してはどうしても愛着が湧いてしまいます。

6. 「知識」は一時的なもの、「知恵」は普遍的なもの

「知識」と「知恵」という言葉はよく混同されがちですが、別物です。けれど、まったく別物ということではありません。知識は一時的なもので、知恵は普遍的なものだと考えています。知識は今この瞬間、生きるために必要な情報。時代や状況が変われば、使えなくなってしまうかもしれない。一方で、今日でも明日でも、10年後でも50年後でも使えるものが知恵でしょう。知識を学ぶことに意味がないかといえば、もちろんそんなことはありません。知識を得るというプロセスを経ることで、知恵は身についていきます。

7. 自分自身の美意識を磨く

私は常々、「美しい棋譜を残したい」と言ってきました。(中略)価値基準は決して絶対的なものではないけれど、美しさを求めることが大切。手を選ぶ時に「美しい棋譜を」という思いがあれば、それが「美しいかどうか」と考えれば、かなり近道ができる。そういう感覚は大切だと思います。将棋の世界でも、美しさの価値基準は一定のものがあると思う。例えば、手に無駄がない、重複することがない、自然で秩序立っている・・・そういう部分は共通しています。(中略)私の理想は、一局の将棋が初手から終わりの一手まで、一本の線のようになっていること。すべての駒が調和がとれて活用できると喜びを感じます。

8. 頭ではなく心で考える

「頭ではなく心で考えることを癖づけることで、人間の持つ余計な概念やエゴがなくなり、無に近くなる。それで、物事の正しい判断ができるのだろうと思っています。また、そのような癖をつけると、自然とツキがやってくるのではないでしょうか」

まとめ

「エネルギーをどこにかけるか?」という問いは、賢い人ほどよく考えていますね。負け方のスタイル、哲学についても自分には目から鱗でした。負けることに熟知していなければ勝ち続けることは難しいですからね。 

欠点は長所の別の面という話もよかったですね。将棋をやっている方はわかると思いますが、駒には強みと弱みが必ずあります。強みだけの駒、弱みだけの駒というのはないんですね。その組み合わせで相手に勝つのがこのゲームの醍醐味ですが、現実の世界でもこの考え方は大いに役立つのではないでしょうか。

優秀な経営者は人の使い方が上手いので、将棋も強いと思います。逆に言えば、将棋が強いということは、経営もできるということ。いっそのこと将棋の有段者を経営者に育成するプログラムを作ったら面白いかもしれません。それくらい将棋というのは深い思考力を要求する良いゲームです。 

他には、「情報をいくら分類、整理しても、どこが問題かをしっかりとらえないと正しく分析できない」という話や「いい手よりも普通の手を探すほうが難しい」という話、「リスクの大きさはその価値を表しているものだと思えばやりがいが大きい」という話などが面白かったです。「頭がよくなる方法はありませんか?」という問いについても答えているので、いま持っている本を百冊捨てて、片付け本の一冊としてぜひ書棚に加えてみてください。

自習問題

  • 早く使い切らないほうがいい局面はないのか?あるとしたら、それはどんな局面か?
  • 負け方の分析はどのポイントに着目すれば確実に効果があるか?ミスで負けたとしたらミスしない方法はないのか?逆にミスしても影響をなくす方法はあるか?
  • 欠点を有効活用する方法はどんなものがあるか?周りの人の欠点で考えてみよう。
  • 相手の駒を無駄にする手はいつでも有効か?有効にならないときがあるとしたら、どんなときか?
  • 選ぶとはどんなプロセスか?「捨てる」という言葉を使わないで表現するとどうなるか?小学生に説明するとしたらどうなるか?
  • 「知識」は一時的なもの、「知恵」は普遍的なもの。だとしたら、情報とは何か?データとは何か?これ以外の定義はどんなものがあるか?
  • 周りの人はどんな美意識を持っているか?
  • 心で考えるとはどうすればできるか?具体的にするとしたらどう説明できるか?
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