2016年12月4日日曜日

【書評】『捨てる力』羽生善治

最近では「片付け」が世界的に流行っています。では、なぜいま「片付け」が注目されるようになったのでしょうか?そして、日本にとどまらず、世界共通でその方法論が必要とされるようになったのでしょうか?片付けはただ家の中、部屋の中を綺麗にするだけなのでしょうか?片付けの方法論は、家庭のみならず仕事の場にも活かせないのでしょうか?「捨てる力」は、そんな疑問に答える一冊です。(嘘です。将棋の考え方の本です。)

著者紹介

羽生善治。日本の将棋棋士。二上達也九段門下。棋士番号は175です。1970年9月27日生まれの現在、44歳です。身長は172cm。埼玉県所沢市で生まれ、幼稚園に入る頃から東京都八王子市に移り住みました。詳しくは、Wikipediaで読んでください。1996年2月14日、将棋界で初の7タイトル独占を25歳で達成し、その後も記録を塗りかえ続ける天才棋士です。(ちなみに、チェスでも日本トップクラスの腕前です)

目次

  1. 今持っている力は早く使い切ったほうがいい
  2. プロとして続けていくなら負け方のスタイル、哲学を身につける必要がある
  3. 欠点を裏返すとそれがその人の一番の長所であったりする
  4. 無駄な駒は一枚もない
  5. 重要なのは「選ぶ」より「捨てる」こと
  6. 「知識」は一時的なもの、「知恵」は普遍的なもの
  7. 自分自身の美意識を磨く
  8. 頭ではなく心で考える
捨てる力 (PHP文庫)
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『捨てる力』を8つに分解

1. 今持っている力は早く使い切ったほうがいい

「温存しとこうとかあとで使おうというのはダメで、今持っている力は早く使い切ったほうがいい」「(七番勝負の場合)最後に力を残しておこうとしても、使う前に終わっちゃうことが多いんですよ」

2. プロとして続けていくなら負け方のスタイル、哲学を身につける必要がある

プロとして続けていくなら、勝つことよりも負け方のスタイル、哲学を身につける必要があるのではないでしょうか。

3. 欠点を裏返すとそれがその人の一番の長所であったりする

「企業秘密だから言わないが、自分では(自分の欠点を)わかっている。自分ではわかっているのだから、その欠点は消すことができるかというと、それは難しい。それを消そうとすると、また別の欠点が出てくるのである」

4. 無駄な駒は一枚もない

将棋には王将をはじめ、8種類の駒がある。「何気なく忘れていた隅っこの歩が、あとですごく効いたというのが本当にある。会社組織と同じで、なんだか暇そうな人間がひとりいるぞと思っていたら、5年後にはすごい功績をあげたなんてことがあるんですよ」

5. 重要なのは「選ぶ」より「捨てる」こと

山ほどある情報から自分に必要な情報を得るには「選ぶ」より「いかに捨てるか」のほうが重要。手は浮かぶものではなくて、消去して残ったものになります。ひとつの手を選ぶということは、それまで散々考えた手の大部分を捨てること。たくさん時間を費やした手に対してはどうしても愛着が湧いてしまいます。

6. 「知識」は一時的なもの、「知恵」は普遍的なもの

「知識」と「知恵」という言葉はよく混同されがちですが、別物です。けれど、まったく別物ということではありません。知識は一時的なもので、知恵は普遍的なものだと考えています。知識は今この瞬間、生きるために必要な情報。時代や状況が変われば、使えなくなってしまうかもしれない。一方で、今日でも明日でも、10年後でも50年後でも使えるものが知恵でしょう。知識を学ぶことに意味がないかといえば、もちろんそんなことはありません。知識を得るというプロセスを経ることで、知恵は身についていきます。

7. 自分自身の美意識を磨く

私は常々、「美しい棋譜を残したい」と言ってきました。(中略)価値基準は決して絶対的なものではないけれど、美しさを求めることが大切。手を選ぶ時に「美しい棋譜を」という思いがあれば、それが「美しいかどうか」と考えれば、かなり近道ができる。そういう感覚は大切だと思います。将棋の世界でも、美しさの価値基準は一定のものがあると思う。例えば、手に無駄がない、重複することがない、自然で秩序立っている・・・そういう部分は共通しています。(中略)私の理想は、一局の将棋が初手から終わりの一手まで、一本の線のようになっていること。すべての駒が調和がとれて活用できると喜びを感じます。

8. 頭ではなく心で考える

「頭ではなく心で考えることを癖づけることで、人間の持つ余計な概念やエゴがなくなり、無に近くなる。それで、物事の正しい判断ができるのだろうと思っています。また、そのような癖をつけると、自然とツキがやってくるのではないでしょうか」

まとめ

「エネルギーをどこにかけるか?」という問いは、賢い人ほどよく考えていますね。負け方のスタイル、哲学についても自分には目から鱗でした。負けることに熟知していなければ勝ち続けることは難しいですからね。 

欠点は長所の別の面という話もよかったですね。将棋をやっている方はわかると思いますが、駒には強みと弱みが必ずあります。強みだけの駒、弱みだけの駒というのはないんですね。その組み合わせで相手に勝つのがこのゲームの醍醐味ですが、現実の世界でもこの考え方は大いに役立つのではないでしょうか。

優秀な経営者は人の使い方が上手いので、将棋も強いと思います。逆に言えば、将棋が強いということは、経営もできるということ。いっそのこと将棋の有段者を経営者に育成するプログラムを作ったら面白いかもしれません。それくらい将棋というのは深い思考力を要求する良いゲームです。 

他には、「情報をいくら分類、整理しても、どこが問題かをしっかりとらえないと正しく分析できない」という話や「いい手よりも普通の手を探すほうが難しい」という話、「リスクの大きさはその価値を表しているものだと思えばやりがいが大きい」という話などが面白かったです。「頭がよくなる方法はありませんか?」という問いについても答えているので、いま持っている本を百冊捨てて、片付け本の一冊としてぜひ書棚に加えてみてください。

自習問題

  • 早く使い切らないほうがいい局面はないのか?あるとしたら、それはどんな局面か?
  • 負け方の分析はどのポイントに着目すれば確実に効果があるか?ミスで負けたとしたらミスしない方法はないのか?逆にミスしても影響をなくす方法はあるか?
  • 欠点を有効活用する方法はどんなものがあるか?周りの人の欠点で考えてみよう。
  • 相手の駒を無駄にする手はいつでも有効か?有効にならないときがあるとしたら、どんなときか?
  • 選ぶとはどんなプロセスか?「捨てる」という言葉を使わないで表現するとどうなるか?小学生に説明するとしたらどうなるか?
  • 「知識」は一時的なもの、「知恵」は普遍的なもの。だとしたら、情報とは何か?データとは何か?これ以外の定義はどんなものがあるか?
  • 周りの人はどんな美意識を持っているか?
  • 心で考えるとはどうすればできるか?具体的にするとしたらどう説明できるか?
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